今後の治療への手がかりを見つける”基礎研究”
当講座では救急診療をおこないつつ、時間をつくって大学院生の先生方と一緒に基礎研究もおこなっています。100年前と比較して医学は飛躍的な進歩をとげました。ただ、現代の医学でも治療方法のない疾患・病態すらわからない疾患は数多くあります。救急の現場では、救命はできたものの社会復帰できない方は多くいらっしゃいます。例えば、重症の熱中症で救急搬送された方を想像してみてください。現代は、体外循環があり、急速に体温を下げることが可能です。その後、集学的な治療をおこない救命はできますが、社会復帰の段階でふらつき・構音障害などの後遺症が残り、もとの生活に戻れない方がいらっしゃいます。熱中症後の中枢神経傷害については、治療はおろか、小脳が傷害されやすいこと以外、まだ病態すらわかっていません。まだわかっていない病態・疾患について、今後の治療への何らかの手がかりを見つけるのことが基礎研究の最大の魅力です。
余談になりますが、夏に冷たい飲み物をたくさんのむと夏バテすると聞いたことはありませんか?『なぜ人は夏バテをするのか?』おそらく自律神経障害が関係してるようですが、こんな身近なことですらわかっていません。また、熱がでると頭がボーとすることがあります。普段当たり前に感じていることですが、2017年にこの原因が炎症により脳内に遊走したマクロファージから炎症を引き起こす物質(TNF-α)が出て神経突起の形が変化することが関連しているのではないということが有名雑誌(Priller J, 2017, Nature Medicine)に掲載されたくらいです。
当講座の基礎研究について
研究の進め方
当講座では、救急・災害医学教室と基礎の研究室で連携し基礎研究の指導にあたっています。例えば、私が所属している顕微解剖学教室では4名の大学院生が臨床の合間に研究をおこなっています。同教室の准教授と私で研究の大きな方向性を決め、そのテーマに沿った研究を大学院生と一緒に議論をしながら進めています。
現在行っている研究
今は、マウス熱中症モデルを用いて熱中後におこる遅発性神経傷害、深部体温調整に関わる遺伝子について研究を進めています。最近わかってきたのは、熱中症後の全身炎症(SIRS)と中枢神経でおこる炎症の時期がどうも異なっていることがわかり、これが遅発性の神経障害に関与しているのではないかというところまでわかってきました。今、これらの結果をCritical Care Medicineに投稿する準備もしています。私自身も大学院で初めて基礎研究に触れ、今も研究を継続しています。全く経験のない大学院生の先生方にも米国集中治療医学会(SCCM)での発表や、英文雑誌への投稿をサポートしてきました。是非、皆さまと一緒に仕事をできることを楽しみにしています。